この記事のポイント
- 治療院ではなく学校法人で働く鍼灸師の実態を紹介
- 授業・学生指導・臨床など、多岐にわたる仕事内容
- 教育現場ならではのやりがいや苦労、キャリア選択の背景も公開
はじめに
「鍼灸師=治療院で施術」というイメージを持つ方が多いかもしれません。ですが、私のように学校法人に所属し、教育に携わる鍼灸師という選択肢もあります。
私は現在、鍼灸の専門学校で教員として働いており、授業や臨床、学生指導など、日々さまざまな業務に携わっています。
この記事では、そんな“もう一つの鍼灸師の働き方”について、実際の仕事内容や感じていることをリアルにお伝えします。
学校法人で働く鍼灸師の仕事内容
授業:実技から国家試験対策まで
私が担当するのは、基礎的な実技や鍼のメカニズム、解剖学などの講義から、国家試験対策に至るまで幅広い内容です。まさに“鍼灸を教えること全般”を担っています。
学生指導:幅広い層に合わせた対応
学生の年齢は、高校卒業直後の18歳から、定年後の社会人まで実にさまざま。以前勤めていた大手の学校法人では、若年層が多く、社会人としてのマナーや人間的な成長を重視して指導していました。
一方、現在の勤務先は小規模で、教員数も限られているため、学生指導は教員個人の裁量に任されがちです。授業や業務に追われ、個別対応の時間を取るのが難しいのが現状です。
前職では職員が多く、授業の分担も明確だったため、生徒一人ひとりとじっくり向き合うことができました。今はその余裕がなく、同じ対応をしようとすれば時間外労働が必要になりますが、残業手当が出るわけでもありません。ジレンマを感じる部分です。
臨床も継続中
現在は週に3人程度の臨床を継続しています。学校に併設された鍼灸院で、授業や患者さんの都合に合わせて施術を行っています。
教員として臨床がゼロでないことはありがたいですが、やはり時間的制約は大きく、十分に診療時間を確保するのは難しいです。
なお、学校によっては治療所があっても実質的には稼働していないケースもあります。教員の負担、人員不足、制度的な制限などの理由で、臨床を行いたくてもできない教育機関も少なくありません。
この働き方のメリット
- 定時(9時〜17時)があるため、家庭との両立がしやすい。
- 学生の成長を間近で見られる。国家試験合格の瞬間は、教員冥利に尽きます。
- 一定の安定性がある。給与や福利厚生の面ではサラリーマン的な安心感があります。
※ただし、現在の勤務先は小規模で、組織力や制度面では課題も多く、大手法人にいた頃の安定感とは異なります。
つらいと感じること
- 臨床を重視する業界の空気とのギャップ:治療院や開業で活躍する友人たちの熱量に圧倒されることもあり、劣等感を覚える場面も。
- 頑張りが収入に直結しにくい:個人事業主とは違い、努力の分だけ報酬が上がるという構造ではありません。
- 学習習慣のない学生との向き合い:ゼロベースからの指導は大変ですが、ふとした成功体験をきっかけに行動が変わり、卒業間近には目の輝きが変わっていることも。だからこそ、その変化に立ち会える瞬間は、何よりのやりがいです。
なぜこの道を選んだのか?
私は以前、「鍼灸師は大学卒であるべき」「大学病院で働きたい」と強く思っていました。鍼灸の有効性を科学的に証明し、医療に認められる存在にしたかったからです。
しかし実際に業界に入ると、現場は多様で、理想論だけでは立ち行かない現実も見えてきました。研究職を目指すには力不足も感じるようになりました。
そんな時ふと、「自分が行けないなら、その道を目指す人に伝えればいい」と思ったのです。
教育の場なら、未来の鍼灸師と出会える。理想や考え方を伝えられる。そう考えて、今の道を選びました。
現実には、“免許を取らせることで精一杯”という状況ですが、それでも教育という形で未来の鍼灸師を育てることは、臨床に負けない“鍼灸の仕事”だと胸を張って言えるようになりました。
おわりに
鍼灸師の働き方は、治療院や開業だけではありません。学校法人で教育に携わるという選択肢も、確かに存在します。
教えることを通じて、自分自身も成長できるこの働き方に、私は誇りを持っています。
「こんな働き方もあるんだ」と思っていただけたら嬉しいです。鍼灸師としてのキャリアに迷っている方のヒントになれば幸いです。